第一話

直江から告白されてからも、俺たちの日常はなんら変わらない。
飯作って、一緒に借りたDVD観て、泊まれば朝飯とついでに弁当も作ってやって。
直江は気持ちを押し付けたくないと言ってたけど、俺は自分の気持ちさえ分からないんだから、受け入れるなんて一生出来ないのかもしれない。


昨夜の騒動から目を覚ました直江がリビングに来たのは、時計の針が正午に回った頃だった。

「おはようございます」
「はよ」
「泊まっていってくれたんですね」
「おお…はいコーヒー。朝飯は炒飯だかんな」

つってももう昼飯か。
スウェット姿の直江が食卓につく。ちなみに服は、昨日気絶したこいつを俺が必死で着替えさせた。

もぐもぐ口を動かす直江がゴクンと飲み込む。

「そういえば…俺昨日ここに帰ってからの記憶がないんですが…」

言いながら膝蹴りを食らった所をさする。
あ…そう。覚えてないのか、あれを。

「多分、酔っ払って忘れてしまったんだけど…俺何かしました…?」

酔った勢いで何かやらかしたかもしれない、と焦っているのだろう。残念だが、その通りだ。

俺は机を挟んだ前に座り、口を開いた。

「押し倒された」
「……ぇ、え!!?」

直江は衝撃の事実に目を見開くと、その後すぐ悟りを開いたような顔をした。

「………責任をとります。今すぐ籍を入れましょう」
「おい今何考えた。殴んねえから言ってみ?」

この野郎…ぜってえ今頭ん中で俺を剥いた。

「ちょっと押し潰されただけで何もしてないから安心しろ。してたら今頃お前が食べてんのはカップラーメンだ」

そう言うと直江は心底安心したような顔をした。
そこまでホッとしなくてもいいだろ、失礼な。

「よかった……、俺はてっきり酔った勢いであなたに無体を働いたのかと…」
「…阿呆。あと…えーと、謝りたいことが」
「?」
「そんとき動転して、頭思いっきり蹴っちまった。そしたら直江、気ぃ失って」
「…あー、どおりで二日酔いとは違う痛みが頭に…」
「お、お前が悪いんだぞ!エロイ声でエロイことしようとするから…」

思い出して顔が熱くなる。
いたたまれなくなってキッチンへ逃げようとすると、直江に手首を掴まれた。

「…なに」
「怖い思いをさせてごめんなさい。嫌だった…?」

鳶色の瞳が濃い色合いで揺らめく。

「あ…あたりまえだ馬鹿!」

赤くなった顔を見られたくなくて、手を振り払い早足にキッチンへ向かった。

ゴム手袋をつけて食器を洗うスポンジを握る。

触られても別に嬉しいとは思わなかった。
でも嫌…ではなかった気がする。
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