直江から告白されてからも、俺たちの日常はなんら変わらない。 飯作って、一緒に借りたDVD観て、泊まれば朝飯とついでに弁当も作ってやって。 直江は気持ちを押し付けたくないと言ってたけど、俺は自分の気持ちさえ分からないんだから、受け入れるなんて一生出来ないのかもしれない。 昨夜の騒動から目を覚ました直江がリビングに来たのは、時計の針が正午に回った頃だった。 「おはようございます」 「はよ」 「泊まっていってくれたんですね」 「おお…はいコーヒー。朝飯は炒飯だかんな」 つってももう昼飯か。 スウェット姿の直江が食卓につく。ちなみに服は、昨日気絶したこいつを俺が必死で着替えさせた。 もぐもぐ口を動かす直江がゴクンと飲み込む。 「そういえば…俺昨日ここに帰ってからの記憶がないんですが…」 言いながら膝蹴りを食らった所をさする。 あ…そう。覚えてないのか、あれを。 「多分、酔っ払って忘れてしまったんだけど…俺何かしました…?」 酔った勢いで何かやらかしたかもしれない、と焦っているのだろう。残念だが、その通りだ。 俺は机を挟んだ前に座り、口を開いた。 「押し倒された」 「……ぇ、え!!?」 直江は衝撃の事実に目を見開くと、その後すぐ悟りを開いたような顔をした。 「………責任をとります。今すぐ籍を入れましょう」 「おい今何考えた。殴んねえから言ってみ?」 この野郎…ぜってえ今頭ん中で俺を剥いた。 「ちょっと押し潰されただけで何もしてないから安心しろ。してたら今頃お前が食べてんのはカップラーメンだ」 そう言うと直江は心底安心したような顔をした。 そこまでホッとしなくてもいいだろ、失礼な。 「よかった……、俺はてっきり酔った勢いであなたに無体を働いたのかと…」 「…阿呆。あと…えーと、謝りたいことが」 「?」 「そんとき動転して、頭思いっきり蹴っちまった。そしたら直江、気ぃ失って」 「…あー、どおりで二日酔いとは違う痛みが頭に…」 「お、お前が悪いんだぞ!エロイ声でエロイことしようとするから…」 思い出して顔が熱くなる。 いたたまれなくなってキッチンへ逃げようとすると、直江に手首を掴まれた。 「…なに」 「怖い思いをさせてごめんなさい。嫌だった…?」 鳶色の瞳が濃い色合いで揺らめく。 「あ…あたりまえだ馬鹿!」 赤くなった顔を見られたくなくて、手を振り払い早足にキッチンへ向かった。 ゴム手袋をつけて食器を洗うスポンジを握る。 触られても別に嬉しいとは思わなかった。 でも嫌…ではなかった気がする。 next |